第220号 2月13日

 Sの責任感

 給食の配膳の時のことでした。教室に備えてあったストローがついに底をつきました。ストローや牛乳、はしを配っていたのはS君でした。
「先生、ストローない。」
と私のところに来ました。
「ストローは職員室にあるから、とってきてくれる?」
と言いました。がんばって取りに行きました。しばらくして、もどって
「先生、職員室で、誰かご飯食べてた。」
私、「そりゃ、昼だもん。ご飯食べてるっしょ。そんでストローは?」
彼は遠慮して戻ってきたのです。
「『ストロー下さい』って言えばちゃんとくれるから、もう一回行ってごらん。」
ちょっと足取りは重く、もう一度挑戦です。誰かもう一人つけようかとおもったけど、ここはがんばって一人でもう一回行ってもらうことにしました。しばらくして、ストローの包みを抱えて、ちょっと表情もよく、戻って来ました。
「あー、よかった。よかった。そのへんにおいておいて。」
私は、「ストローが当たらなかった子は、まあ、あるとこはわかってるんだから自分で取りに行けばいいさ。」ぐらいに思っていました。
 ところが、ここからがS君のすてきなところ。ストローを一つかみもって、一人一人のところを回り、お盆の上にストローがちゃんと乗っているかチェックして、渡しているんです。私だったら、「ストローもらってない人はこっちに取りに来なさい。」って終わってしまいそうですが。そうした動きがあって、誰一人「ストロー当たってない。」と苦情もなく、給食を食べることができました。
 実に細やかな責任感だと見ていて、感心して、また、S君らしい責任の果たし方だなあと思いました。全部のストローを配り終えて、白衣をしまおうとしているとき、彼をちょっと呼んで、
「今のあなたの動きはとっても良かった。ただ、ストローを持ってくるだけではなく、もらえたかった人がいないかちゃんと調べて回った。こういうのを責任を果たすっていうの。とってもえらかったよ。」
と頭をなぜてあげました。
 この間のテレビで、おもちゃ屋の社長が客にクリスマスプレゼントのおもちゃが壊れていると怒鳴りこまれた時、サンタのかっこうをして客の子どものところに謝りに行き、三日後におもちゃを届けたという番組がありました。その苦情処理に感激した家族はその店をひいきにしたそうです。
 今回もストローを持ってくればそれで給食当番の責任は果たしたのかもしれません。でも最後の一人までストローをもらえたかどうか、チェックするまできちんとやったことは、子どもたちにとっても、S君の株をぐっとあげることになったと思います。
 ピンチは、成長のチャンスです。今回の動きから、そんなことをふと思いました。